本作のスゴイところは読み返すたびに新たな発見があること、作者の緻密に計算され用意された伏線に気付かされることだ。この発見の心地よさが一ノ関圭作品の持つ魅力のひとつでもある。その例のひとつを紹介しておこう。
一番最初に軽く流して読んだ時に気になったシーンがあった。"第二場 卯之吉 その一"の口入屋(職業斡旋所)で、(P149)「はしっこすぎるのやませたのはいけないよ」「それに…」「弟がいたのはあの子だけさ」と意味深な発言をした女は誰か?というもの。二回目の少しじっくり読んだときに判りました。(P151)「あ――やっと来た来た!」「ちょっとおそかったじゃないか」「忙しいんだよ、きょうは」「あんたなまえなんというの?」ちぢまつの顔を知っているが名前は知らないということは、この待っていた女が意味深発言の女でした。それが女中頭おこな。(これは伏線とその答えの近い例ですが、手ごわい伏線がたくさん用意されております。続巻のための伏線も多い。)
この"ちぢまつ"が登場し"卯之吉"という名がつくまでたった8ページで、そしてあの濃密なストーリー展開ですから、一ノ関圭作品にはいつも驚かされます。用意周到で緻密な構想・創作ノートの存在をうかがわせます。その上あの驚異の絵ですから、寡作にならざるを得ないのですね。ファン読者はただじっと待つしかありません。覚悟せよ!!
《読者としての反省》
今でもふと思い出して関連する場面を読み返すことがある。そして気にかかったらエクセルにメモを追加で残しておく。今日気になって開いたのは、勝十郎の婚姻でのりはに対する決意「これからはおまえの夢がおれの夢だ」。次は父に打擲された回想の場面へ「この、世の中の規矩にはどうしようもないこともあるのだ。よいか、わかったか勝十郎!?」そして「鼻紙写楽」始めでもある勝十郎登場シーンへ移動。ここ(最初に読んだ6/4から17日目の今日)で初めて気づきました。勝十郎の左目あたりに殴られたようなアザがあります。同心の父が家に居たという事は恐らく夜だろう。家を飛出し眠れない夜を徘徊したかも知れない勝十郎。(父に諭された翌日)気づいたら繁華街の通りを歩いていた勝十郎は、聴こえてきた太鼓の音に気付き、音のする方向へ向かう。そこは芝居小屋の通りで「芝居小屋を初めて覗いたのは十四の齢だった」という大切な3ページだったことに。アザのつながりに気づく前は第一場の主人公の単なる登場シーンだと思っていました。
これは私の読み方に問題があったようです。普段からセリフ>ト書き>絵という順番で重きを置いてマンガを読んでおりますが、一ノ関圭作品の場合には絵で表した伏線もあるということで、四度目の再読が必要のようです。読み方の甘い自分の至らなさに反省(*- -)(*_ _)
◆素敵な装幀&連載・単行本の功労者などを画像で紹介◆
●カバー
切手ファンにはお馴染みの切手趣味週間シリーズの写楽(寛政6年(1794)作品)は、市川蝦蔵(五代目団十郎)演ずる『恋女房染分手綱』の竹村定之進、とのこと
●帯
《表》
伝説の作家、復活!
絶賛
隅から隅まで繰り返し
この世界に浸りたい。
待ってました! この一冊!
高橋留美子(漫画家)
四半世紀ぶりの新刊!
《裏》
寛政元年(1789)、上方にない錦絵の技法を学ぶべく、
ひとりの絵師が江戸に下ってきた。
流光斎如圭、後に"東洲斎写楽"の名で知られることとなる男である。
如圭は、到着早々、ひわと名乗る女と出逢う。
ひわは、なんと江戸歌舞伎の大名題五代目市川団十郎の娘であった。
出版、芝居、政治の世界をも巻き込んで、巨大な渦が巻き起こる。
雑誌掲載原稿に大幅加筆し、
さらに新エピソード52ページを描き下ろした、
一ノ関圭、渾身の大作。
東洲斎寫楽
―あまりに真を描かんとて
あからさまにかきなせしゆえ
長く世におこなわれず―
「浮世絵類考」より
●本体
持つ手の汗とスレによって印刷の色がすっかり落ちしてしまいました。次巻ではもっと頑丈な装幀をお願いします。
●目次
●初出一覧
●奥付
《世に送り出してくれた編集者さん方》
★連載担当 園田浩之、片岡靖子(フリー)、佐藤敏章
★単行本編集責任 大島誠
★単行本編集 佐藤敏章(フリー)、橋本俊輔(小学館ナニング)
★企画者 佐藤敏章(フリー)
★装幀 大野鶴子+Creative・Sano・Japan
◆読者からのお願い◆
疑問や謎がまず気にかかっておりましたので、
それにようやく気づいたのは6/4スタートで3回目読了の6/15のことです。
最終ページ下段に"「鼻紙写楽」第一幕―完―"とあることに…
ということは"第二幕"を想定しているということですよね。
編集の親分と思われる佐藤敏章さんをはじめ、よろしくお願いします。
日本マンガ界の"至宝"と云ってもおかしくない一ノ関圭作品の続巻をお待ちしております。
◆「漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018」記事から到着◆
もうかなり昔のことですが、ネットをウロウロしていました時に個人経営の小さな出版社のサイトにあった「編集雑記」というページに辿り着きました。その「編集雑記」が赤裸々な心情吐露で殊更面白かったことから、勝手に夢の屋サイトのリンク集に加え、一応事後承諾をと思いメールを差し上げてから、編書房の代表・國岡克知子さんと時々メールをやりとりするようになりました。ある時「編集雑記」にマンガ家・紡木さんの名前を見かけるようになりました。私も昔はマンガ貸本屋でしたので、紡木たく作品を読んでおりましたけど、格別ファンではありませんでした。ただ紡木たくさんが新作品をずっと描いていないことは知っておりましたので、ちょっと驚きました。というのは、編書房さんはマンガ作品を手がけたことは無く、マンガ関連本もやっておりませんでしたので…。恐らく紡木たく作品ファンであった國岡克知子さんがファンとしてマンガ家・紡木たくに接触し、そして何度も逢って会話するなかで、作者に新作を描くその気にさせた、それもマンガ作品の実績の無い小さな出版社が…。この時は思い起こしたのは、編集者は産婆役だという編集人誰かの言葉ですが、編集者って何とスゴイ仕事なんだろうと感じた次第です。
その一編集者がマンガ家を口説いてできた作品が「マイガーデナー」です。そして2007年発売時の出版社からのコメントは「12年の沈黙を破って、久々に描き下ろしたコミックです。……(中略)……紡木さん独特のセリフ、読者に考える余地を残しておく詩的な絵柄、背景を描き込まない白の多い構図、これらが一体となって、哲学的ともいえるコミックに仕上がっていると思います。」(編書房は2011年に廃業)
今回の一ノ関圭作品「鼻紙写楽」でも似たようなことが…。マンガ家としては長らく何も発表していない一ノ関圭さんとずっと接触していた小学館の編集者がいて……という中で雑誌掲載が始まり、連載もスタートし、そして連載作品原稿の加筆と描き下ろしエピソードを加え単行本になってファンの前に復活!!
◆まだ入手可能な一ノ関圭マンガ作品◆(2015.6/20現在)
bookshop小学館には文庫本2冊の在庫有り
「いつでも在ると思うな新刊!!絶版が待っている!!」
◎一ノ関圭「らんぷの下」小学館文庫(2000年)
http://www.bookshop-ps.com/bsp/bsp_detail?isbn=4091924611
◎一ノ関圭「茶箱広重」小学館文庫(2000年)
http://www.bookshop-ps.com/bsp/bsp_detail?isbn=409192462X
◎一ノ関圭「鼻紙写楽」小学館(ビッグコミックススペシャル)
http://www.bookshop-ps.com/bsp/bsp_detail?isbn=9784091870803
これらはアマゾンにも新品としてありますが、古本はプレミアム価格ですので、高価なものに手を出さないようご注意を。
普段マンガを読まないような小説派の友人にも是非一ノ関圭作品をオススメしましょう。文芸派などもこれらの濃い内容と絵の表現力にきっと驚くことでしょう!!ただ友人にすすめる時には付け加えるべきかな、手ごわい作品だぞ!一回読んだぐらいじゃ構成の細部は理解できないはずだぞ!と。